やまのがっこうプロジェクト 特集コラム

主を失った空き家

LIMO通信 vol.35より

中越大震災から12周年を迎えようとしていた昨年の秋、
中学の同級生の「四十九日法要」が東京のセレモニーホールで営まれた。
一般的には親族だけで営まれるものだから、
声が掛かるとは思ってもみなかった。
「四十九日法要」が終わると、
帰りがけに彼の奥さんから1通の封筒を手渡された。
「次のオリンピックが開催される2020年、
主人が同級会の幹事を務めることになっていると聞いていました。
どうか、その幹事役をお願いできないでしょうか」と頭を下げられた。
「奥さん、そんなこと心配に及びませんよ。代役は誰かが引き受けますから」と即答して封筒を受け取ったのだが、
奥さんの顔色は曇ったままだった。
その時は、それで失礼して東京を後にしたのだが、何か気にかかっていた。
中学卒業時、つまり48年前の中学3年時の同級会は、
卒業生の誰もが忘れないように「オリンピック開催年」に合わせて開くことをたった一つの約束としていた。
その他のことは、すべて幹事役に任されていた。
次のオリンピック開催年は、2020年だが、オリンピックの開催国は「日本」、
開催地は「東京」である。
まだまだ時間に余裕はあると思いつつ、
なぜか会場の予約が気になり、机の引き出しに押し込んだままにしておいた封筒を開けてみた。
故人が計画していた同級会は泊りがけで、しかも奥さんの出身地でもある中越大震災の被災地を訪ねたらどうかというプランだった。
奥さんが、なぜ私に幹事役を託そうとしたのか、その理由が分かったように感じ、
東京を離れたという奥さんの生家を訪ねてみた。
すると、生家はすでに主を失ったまま放置され、空き家になっていた。
近くに住んでいる村の総代さんに聞いてみると、
「奥さんは、娘さんがいる関西に移ったそうだ。娘さんが小さい頃は、毎年のように家族連れで遊びに来たけどな」と話してくれた。
「この家はどうなるのですか」と聞くと、
「分からん、役所に処分を一任したと聞いたが、詳しくは……」と口を濁し、
続けて「空き家は、村のあちこちにある。すこし直せばすぐ暮らせるし、畑も、田んぼもある。やる気があれば何とでもなる。今、山で暮らす若い奴がいないのは、俺たちのせいだ。都会へ出て勉強して偉くなれ、そうじゃないといい暮らしはできないと教えてきたからな」と吐き捨てるように言った。
帰りの道すがら、「四十九日法要」が終わった後、
奥さんと二人の子どもを抱える娘さんに「山の暮らしも昔ほど不便はありませんから、山で暮らしたらどうですか。学校も、人数は少なくなっていますが、小中一貫で頑張っていますから、大丈夫」と、

一言声を掛けていればよかったと悔やんでいた。