明日への投資
LIMO通信 vol.31より

先日、友人の娘さんから突然電話をもらった。
前回電話をもらったのは、確か中越大震災発災の翌々日だったから、12年前のことになる。
電話をとってから少し時間が過ぎた。
といってもたかだか20秒程度のことだが、電話口に出てからの20秒の無音は長い。
「どうしたの、いつも突然の電話だね」と水を向けると、「わたし、父の故郷で暮らせるでしょうか、できれば今年からでも」と言う。
よくよく理由を聞くと、2年前に離婚して、今は二人暮らしだという。二人といってもゼロ歳の赤ちゃんとの二人暮らしだった。
友人は若くして亡くなっていたから、てっきりお母さんとの二人暮らしだと思っていたのだが、お母さんも彼女が働き始めてから間もなく、病気で亡くなっていた。
彼女の切羽詰まった一言に、私は、中越のある地域を紹介することにした。
その地域では、シングルマザーを対象に婚活を実施した経緯がある。彼女に再婚相手を紹介したいわけではない。
その地域の自然も人も、彼女をやさしく迎えてくれるはずだと伝える気もない。
ただ、彼女に伝えたいことがあった。「地域の人たちは本気だ」ということを。
もう一度学び直して、保育士になりたいと言っていた彼女のことを頭において、「皆さんの住んでいる地域に、シングルマザーのための再チャレンジスクールをつくったらどうだろうか」と問いかけてみると、「空き家をリフォームして住む家を提供し、廃校になった小学校を活用させてもらってチャレンジスクールはできるかもしれないな」
「講師は、地元の大学の先生に頼めるかもしれないしな」
「今、コンピュータの時代だから、そっちは彼女に先生になってもらったらいい。格安で教えてもらえれば、親も喜ぶかもしれない」
話はどんどんと前向きに進んでいく。
その様子を黙って聞いていたおばあちゃんが、突然口を挟んだ。
「おれでよければ、子どもの面倒くらいならみれる。裏の畑の野菜も親子で食べれるぐらいは大丈夫さ。ここで暮らすに、でけえ金なんかいらねえ」
区長さんが後に続く。
「早いとこ連れてこい。まず、暮らしてみることだ。いやならいつでも出て行けばいいから」
中越大震災を乗り切って中山間地(里山)に今も住み続ける人たちは、ダイバーシティ(外に開かれる多様性)の必要性を本質的に理解している人たちなのかもしれない。
だとすれば、「明日への投資」を続けてゆけるだろう中越大震災の被災地(里山)の明日は、決して暗くない。
むしろ未来は明るい。