やまのがっこうプロジェクト 特集コラム

未来への扉

LIMO通信 vol.32より

里山に住みながら、月3万円の収入を目標に「起業」しよう。

いよいよ「さんビズ」(中山間地域での起業講座)が始まった。

「さん」に込められている想いは、太陽の光を意味する「Sun」、無理をしないで月々の生活の足しに3万円を稼ごうとする「3(さん)」、「ビズ」はもちろんビジネスを意味する。

「月に3万円を稼ぎ出すビジネスの起業家実践育成講座」に14名の皆さんが名乗りを上げてくれた。

私の同級生である上場企業の社長さんは、この講座の話を聞いて「月々3万円の収入で年間40万円弱、そのくらいの収入があったところで、何がどうなるものでもないだろう」と言う。

とはいっても、山で暮らす人たちにとっては、月3万円の収入はとても魅力的。

都会から移住してきた若夫婦の生活はといえば、家族3人で食べるお米を手に入れようと、移り住んだ村のお爺さんに弟子入りし3年間の見習い修行。

ようやくにして、集落の皆さんに「やっと食える米が収穫できたな。

生まれてくる子供にうまい米を食わせてやれ」とお墨付きがでた。

田植えから稲刈りまでの人件費は、奥さんとお隣のお爺さんとお婆さんの協力で支出は殆ど無し。

収穫できるお米は、若夫婦とお隣の老夫婦の分、残りは限定直販で売り出し、米作りに必要な経費と二家族分の生活費がねん出される。

米作りの合間を縫って、奥さんは集落で一番高齢のお婆さんに手ほどきを受けて家の裏の畑で野菜を育てている。

「虫食いだし、形もまちまちですが、とにかく美味しい。

それに、なによりなのは安心して子供の口に入れられるということ」「どうして安全だとわかるかって聞かれれば、お婆ちゃんと私が無農薬で精魂込めて育てているからです」

この若夫婦からは、来年「さんビズ」を受講したいと聞いた。

年明けすぐに二人目のお子さんが生まれるのだが、上のお嬢さんは小学校に入学する。

その長女のために3万円ビジネスを始めたいのだと言う。

「私たちに、大きなお金はいらないのですが、もしも、娘が都会で暮らしてみたい、外国に留学してみたいと言い出したら、やっぱり、親としてやらせてあげたい。

少しでもその時の足しになればと思っているんです」と笑顔で言う。

「だから毎月3万円、10年間続けられれば400万円貯められますから」この若夫婦からは気負いも、少しの焦りも感じられない。

確かに里山で暮らしている人たちに接していると、大きなお金は必要ないのかもしれないと思うことがある。

自然に逆らうような無理はしない、とにかく根気よく長い時間をかけて続ける。

そして、いつの間にか自然と折り合いをつけて、その恵みを手に入れる「技能」を習得している。

少なくとも、里山に暮らしている人々には、お金がなければ何もできない、生きていけないという人はいない。

ここには、都会とは少し違う「価値観」を持った人々が、日々の生活を営んでいる。