紡ぎ直される「きずな」
LIMO通信 vol.34より
昨年末、我が家に一通のハガキが届いた。
手紙の送り主はここ数年間、年賀のやり取りもなくなっていた知人からだった。
知人の名前のわきには、見覚えのある女性の名前も記されていた。
その女性は、災害ボランティアとして首都圏の大学から被災地支援に入っていた頃に知り合ったのだから今は立派な社会人になっているはずだった。
ハガキに記されている住所を見ると、間違いなく知人の住んでいる新潟県とある。
ハガキの裏面を見ると、そこには「この度、家族で新潟県に引っ越してきました。ぜひ遊びに来てください」とある。
住所移転のあいさつ文のわきに添えられている一枚の写真は、天気の良い日に見える日本海の夕日だった。
すぐにこの写真が撮れる場所は、あそこしかないはずだと気が付いた。
ハガキの最後には、「中越沖地震被災地でのボランティア活動ではお世話になりました。あれから10年の歳月が流れようとしています。東京生まれなのに、都会暮らしに馴染めず、何をしても一人前にできない私が、初めて人から褒めて頂いたこの土地で暮らす決心をしました」とあった。
数年振りにその知人に電話を入れ事情を聞いてみると、今、彼女は自分の家に住んでいるのだと教えてくれた。
彼女は、東京で結婚生活に疲れ、子ども一人を連れて新潟に越して来たのだと言う。
「女房と一緒に家回りの雪をきれいにしてくれるから大助かりさ。それに、近所の母ちゃんたちと民宿を始めようと話し込んでいる」
知人の声が弾んでいることは、電話越しに聞いているだけでもすぐに分かった。
しかも、彼女は10年前の災害ボランティア仲間の皆さんに引っ越しの挨拶のハガキを出していたのだがそのハガキを受け取ったボランティア仲間の皆さんのアイディアで春夏秋冬のスペシャルツアーを企画しているのだと嬉しそうに話してくれた。
後日、私は彼女からまだアイディア段階だというスペシャルツアーの企画案を、驚きを持って聞いていた。
企画案の中身にではなく、その手法に驚いていた。
彼女と彼女の仲間たちは、春夏秋冬、ここ中越沖地震の被災地でボランティアをした皆さんに招待状付きのツアー案内を出そうと考えていた。
そのツアーは無償ではないのだから「採算割れしない最低人数20名の参加者は確保できますか。しかも春夏秋冬、最低でも年4回開催する計画ですから80名の参加がないと続けられませんよね」と聞いてみると「10年前ボランティアで知り合った皆さんは、全員ここが好きなんです。いえ、少しニュアンスが違いますね。ここに住んでいる『人の生き方』が好きなボランティアの人たちに向かって声を掛けますからきっと楽しいツアーになると思います」と屈託なく笑う。
とても東京で結婚生活に疲れて都会を離れようとしている人とは思えなかった。
これから先、彼女がこの土地でどんな人生を送るのかは分からない。
ただ、人と人の関係を紡ぎ直すことに、優れた知覚をもっていることは確かだと感じている。