やまのいとなみ|2017/05/19

荒谷さんさい物語(1)~最後の山菜ツアー

荒谷という集落が川口地域にはある。世帯数15軒、人口30人に満たない山あいの小さな集落だが、この10年間、4,000人以上が全国各地から訪れ、訪れた人は一様に集落の自然環境の豊かさ、暮らしの知恵と技術の豊富さに驚いた。そしてファンになっていた。

 

 

 

その荒谷集落で、10年目の春の山菜採りツアーが開催され、住民の人数を超える50人もの参加者が足を運んだ。天気に恵まれ、山登りのいでたちに身を包んだ参加者も晴れやかな笑顔。集落の「お父さんしょ」が案内する山の迫力に歓声が上がり、「お母さんしょ」が手づくりした山菜料理にはやはり、頬が落ちた。

 

 

遠くは大阪から、10年前の初回からずっと参加してきたと嬉しそうに語る東京の方もいた。

「ここの山菜はね、味が違うんです。」

集落の住民さえ驚くほどに、この10年のうちに参加者の舌も肥えていた。

 

 

そして、記念すべき10回目の今回をもって、荒谷の山菜ツアーは歩みを終えた。

主催する「はぁ~とふる荒谷塾」が活動を休止することになったのだ。集落住民で構成されたメンバーの健康上の理由のため、やむを得ない判断だった。

 

県内外から訪れた参加者からは、申し合わせたように「来年も」という希望が漏れ聞こえた。

 

 

しかし、今は、その希望にこたえることが出来ない。今はまだ。

不確実なことは言わない。それがこの集落に暮らしてきた人々の実直な生き方だった。

 

 

来年の春、ふたたび荒谷で再会することを願って、参加者は手を振った。見送りに立った集落の「お父さん、お母さんしょ」にも、その手の波は何かの約束のように映ったかもしれない。

 

(つづく)

 

~10年のひと区切りを迎えた荒谷の山菜ツアー、その最初の一歩はどうだったのか、さかのぼります~

佐藤瑞穂
この記事を書いた人

佐藤瑞穂 支援員